コラム
vol.3
本物のパンから出来たハンドメイドの照明「PAMPSHADE」
赤、茶、黄と表面を覆う褐色へのグラデーション。こんがりと焼きあがった表面から発する暖かな光。眺めていると、自然と優しい気持ちに満たされます。この作品がどのように生まれたのかお伺いしに、PAMPSHADE(パンプシェード)制作者の森田優希子さんのアトリエを訪ねました。
◆原点は、パン作りにのめりこんだ学生時代
子供の頃からパンが大好きで、学生時代は美術大学に通いながらパン屋さんでアルバイトをしていました。
パンに携わるうちにもっと好きになり、毎日パンと向き合っていると、新しい発見があったんです。焼く人によって全然違う顔なんですよ。
同じように見えてちょっとずつ違うっていうのがすごく面白くて、そこからパンにのめり込んでいきました。
当時、パンのライトのオリジナルの素案が既にあったんです。自宅でパンを焼いていたある日、パンの中身をくり抜いて、作ったパンに白熱球を入れてみました。そしたら…燃えてしまったんです!
それから、試行錯誤と改良の積み重ねで今に至っています。この経験が、PAMPSHADEにたどり着くまでに欠かせないプロセスでしたね。
◆就職後の大きな転機。そして試行錯誤の日々
大学在学中、パンのライトを制作して発表したんですが、この取り組み、実は一度終わってしまいます。何故かというと、当時は完成したと思ったんです。「パンのライト、これだー!」と思って。
そして大学卒業後、京都の寝具メーカーに就職し7年間、企画デザインの仕事に専念しました。入社して二、三年経った頃、ふと思ったんです。「あのパンのライトまた作りたいな」って。ですが最後に作ったパンのライトがあまりにも原始的なもので、白熱球の熱で燃えてしまった時の事を思い出し、そこから改良を始めます。
燃えないようにはどうすればいいか。材料屋さんに行き、一個一個教えてもらいながら組み立て、それを繰り返すうちに「良いな」と思える物に近づいてきたんです。
改良していくにつれて、「誰かに見てもらいたい」という気持ちが湧いてきました。最初は趣味の範疇でしたが、学生時代のメンバーと発表の場に出してみようという話になりました。そこで、「売って欲しい」と言って下さる方がいたんです。
初めての経験でとても驚きましたし、大きな転機でした。値段なんて考えたこともなくて。その時は販売できなかったんですけど、買って頂くなら長く楽しんでほしい。腐らない為には?販売するなら値段は?いくつも課題が生まれました。
それから、少しずつ「自分の作品+プロダクト」という感覚に変わっていったんです。それからは、思い当たる材料を片っ端から試し、実験して、失敗、この繰り返し。納得いくまで五、六年かかりました。
改良を重ね、今は、置けば自動でライトが点くPAMPSHADE。回り道しましたが、皆さんに喜んで頂く為にどうすれば良いか、その観点を持てたから成長できたのかなと思います。
◆支えてくれるスタッフとの取り組みと法人化の意味
昔から「廃棄パンがもったいない」と感じていて、PAMPSHADEは「廃棄されるはずのパンを使いたい」という気持ちが強かったんです。
色んなパン屋さんに声を掛けて、廃棄パンを集めました。最初は時間がかかりましたが、きちんとお話をさせて頂くことで理解して頂き、たくさんのパン屋さんのご協力で大きく舵を切ることが出来ました。
PAMPSHADEは環境のために、廃棄ロスのパンを使用しています。それが結果的にSDGsに繋がればと思いますし、当初、自分だけに向いていたベクトルが今はどんどん広がっています。PAMPSHADEという作品を、将来的にどう展開していきたいかを考えた時、皆に愛されるものづくり、ブランドにしていきたいなと思いました。
私が創ったベースを基にスタッフが制作し、至らなかった所をスタッフが補ってくれて、新しいテクニックを確立しながら日々アップデートしてくれています。
活動を支えてくれるメンバーの存在ってすごく大切じゃないですか。それで、チームとして事業を始めようと決意しました。自分のためではなくチームのために。PAMPSHADEを楽しんで下さる皆さんのために。
これからもこの気持ちを大事に、思いっ切り楽しんで活動していきます。
◆PAMPSHADEの未来と神戸への想い
今でもパンを焼くと新しい発見があって、PAMPSHADEの完成がゴールではなく、私が感じるパンの奥深さを色んな形で表現していけたらと思ってます。次の作品の種も仕込んでいて、考えるだけでワクワクしますね。
海外では、パリとニューヨークで展示会を開催しました。綴りは微妙に違いますが、フランス語やスペイン語、ラテン語もパンって言うんですよ。海外の方から「ご飯じゃなくてパンでやるんだ!」みたいな反応が面白いですね。
私は神戸で育った期間が長く、母もパン好きで子供の頃から神戸の街のパン屋さんの美味しいパンを食べて育ちました。PAMPSHADEの活動が大きくなって会社を辞め、次の活動拠点をどうしようか考えていました。たまたま神戸に戻って来た時、ふと「自分の暮らす街ってここかもしれない」初めて街に馴染めた感覚があったんです。
神戸ってパン屋さんがたくさんありますよね、自分がPAMPSHADEを生み出す場所として、自然と神戸に落ち着きました。自然体で活動できる感覚がすごく心地良いですし、それが神戸で続けている理由だと思います。
ここ数年でさらに神戸に愛着が湧いてきた実感がありますね。
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■PAMPSHADE(パンプシェード)
Yukiko Morita / 森田優希子 (Artist)
パン屋で働いていた時、廃棄になるパンを見るのが耐えられなかった。パンは食べるだけではなく、それ以外の、それ以上の魅力がある。
そんな思いから、「パンがもっと、好きになる。」をテーマに、パンの魅力を再発見できるようなもの作りを行っています。
2006~2007:初代パンプシェード(アイデア)が生まれる
2008:京都市立芸術大学版画学科卒業
2010:パンプシェードの開発スタート
2016:「モリタ製パン所」開業、「パンプシェード」ブランド立ち上げ
2021:株式会社PANTHEM立ち上げ